のはなの庭

 今日も、のはな・・・の庭は、お花が美しく咲きほこっています。

 のはな・・・は、11歳の魔女見習い。りっぱな魔女をめざして、日々、魔女修行にはげんでいます。
 白いかべと、深い緑のよろい戸、赤い屋根の小さな家に、お父さんとお母さん、のはなの3人でくらしています。家には庭もあり、おもに、ガーデニングが趣味のお母さんが、手入れをしています。
 庭の片すみは、たたみ2枚分ほどの、のはなのためのスペースがありました。のはなはこの庭で、大好きな野草を育てていました。道ばたでひっそりと、あるいは堂々と咲いている、ありとあらゆる種類の花たちが、ここにはあります。季節ごとに、それぞれの草花は、根を張り、くきを伸ばし、葉をしげらせ、花を咲かせ、実をつけます。
 のはなの庭は、道に面していて、通りがかった人たちからもよく見えます。多くの人が、ここを通るたびに、庭を見て、
「とってもきれい。」
「かわいいお花だね。」
と、感想をぽつりとつぶやきます。中には、しっかりとながめて、手入れをしているのはなに、
「とても熱心にお手入れしているのね。」
と、声をかける人もいました。そのたびに、のはなはこの庭をほこらしく思い、自分の手で美しい庭を作れることに、喜びとありがたさを感じるのでした。
 のはなにとって、この庭は、通りがかった人を楽しませるだけでなく、もっと大切に思っていることがありました。

 さて、のはなは、一人で魔女修行をしているわけではありません。お師匠さまがいました。
 お師匠さまは、ベテランの魔女。のはなの二人のおばあさんと、同じくらいの年です。のはなはお師匠さまのことを、おばあさんの姉妹、つまり大おばさんのように思っていました。ときに優しく、ときに厳しく、のはなを導いてくれる、あたたかい人柄です。
 のはなは月に一度、お師匠さまのもとに通い、魔女になるための勉強をしていました。りっぱな魔女になるためには、さまざまな知識を身につけ、それをきちんと活かせるようにならなければなりません。そのため、だれよりも熱心に、多くのことを覚えていました。まわりから見ると、魔女になることは、とてもけわしい道のりに見えます。
 でも、のはなはちっとも大変だと思っていませんでした。それどころか、新しいことをどんどん覚えるのが、楽しくてたまらないようでした。たまにつらいことがあることも、もちろんあります。でも、勉強の楽しさで、いつのまにかつらさも吹き飛んでしまうのでした。
 今日も、そんな月に一度のお師匠さまの勉強の日です。のはなは今、植物について、学んでいました。身の回りにあるたくさんの種類の植物を、一つずつ、しっかりと覚えていくのです。
 今回も、あっという間に覚えられて、お師匠さまは、感心しているようでした。
「さすが、のはなちゃんだね。飲み込みが早いよ。」
「ありがとうございます、お師匠さま。」
 お師匠さまの言葉に、のはなは明るく答えます。
「では、庭も、『くすりやさん』も、続けるといいよ。のはなちゃんなら、いい『くすり』を作れるだろうからね。」
「はい、わかりました。」
 お師匠さまのもとでの勉強の時間が終わると、のはなは楽しい気分で、家へとはずんで帰りました。

 のはなが今もっとも大切にしている修行、それは、庭で育てた野草で、「まほうのくすり」を作ることでした。そのくすりを使うと、心のなやみを解決する、手助けをしてくれるのです。
 花や葉、くきに根、それから実も、くすりの目的に合わせた部分をつんで、煮たり、すりつぶしたり、すりおろしたり、ろ過したり、いくつかの種類をまぜたり、これまたくすりに合った方法で、心をこめて、ていねいに作業をおこないます。そうすることによって、最高のくすりができあがるのでした。
 お師匠さまの元では、植物の知識とともに、くすりの作り方も学んでいました。くすりには多くの種類があり、効果も、作り方もさまざまです。のはなはそれぞれのくすりについて、覚えなければなりません。魔女に伝わるまほうのくすりは、もちろん一人で覚えることはできませんから、お師匠さまの元で、勉強しているのでした。
 のはなは、学んだ知識と技術を活かして、少しでも多くの人に喜ばれたい、と思っていました。その目的のため、「こころのくすりやさん」を開いていました。
 ふだんは学校に行っている、のはな。帰ってきたあとと、学校がお休みの日が、「こころのくすりやさん」を開く時間でした。
 今日も、学校から帰って片づけをすませ、準備をして、くすりやさんを開いてから、あまり時間がたたないうちに、お客さんがやってきました。
 学校の、同じクラスの女の子、白井しらいさんです。
「いらっしゃいませ。なにをおのぞみですか?」
 のはなは、明るく優しく、白井しらいさんに話しかけました。
「のはなさん、わたし、友達とけんかしちゃったの。仲直りをするためのくすりを作ってくれる?」
 白井しらいさんは、困ったように言います。のはなはていねいにおじぎをすると、
「かしこまりました。おまかせあれ。」
と言って、庭の草をつみに行きました。
 友達と仲直りするためのくすりを作るため、ぴったりの植物をいくつか選び、組み合わせます。
「これとこれ、それからこっちだね。」
 白井しらいさんの顔を思い浮かべながら、真剣な顔つきで草をつむ、のはな。相手ののぞみをかなえるため、全力で取り組むのでした。
 つんだ草は、今回はおもに花と実の部分を使います。すりつぶして煮詰め、ろ過して……きれいな色の液体が、ほんの少しだけ、できました。
 できあがった液体を、透明な小びんに入れ、ふたをします。のはなの小さな手に、すっぽりとおさまる小さなびん。くすりの色がすけて、おだやかな気持ちにさせてくれます。
 のはなは、くすりを白井しらいさんのところへ持っていき、渡しました。
「わあ、かわいい。」
 白井しらいさんが、思わずつぶやきます。のはなはにっこりとほほえみました。
 のはなが、くすりの使い方について、説明を始めます。
「陶器の深いコップやお皿……たとえば、マグカップやココットに、お湯を張るの。そこに1、2滴、くすりをたらしてね。」
「うん。」
「そのあとは、お部屋の机の上にでも置いてね。くすりの成分を、空間に広がらせる感じだよ。そうすれば、くすりの効果があらわれるよ。」
「わかった。」
 白井しらいさんは納得したように、うなずきながら聞いていました。
 のはなは最後に、いちばん伝えたいことを言いました。
「このくすりで、勇気をもらったら、あとは白井しらいさんが行動する番だよ。くすりを使ったからには、必ずうまくいくからね。自分を信じて、がんばって。」
「ありがとう。」
「応援しているよ!」
 白井しらいさんは、のはなにくすりの「お代」を渡すと、帰っていきました。
 のはなはもらったお代を、庭をより美しく、草の種類も多くするために使っていました。そうすることで、作れるくすりの種類が増えていきます。おかげさまで、より多くの人ののぞみをかなえることができるのでした。
 よく日も、そのまたよく日も、それよりもっと先も――お客さんがきては、のはなになやみを話し、くすりを作ってもらうのでした。お客さんはたいてい、のはなの学校の人でした。でも、ときどき、どこからか評判を聞きつけて、年上のお兄さんやお姉さん、大人の人がやってくることもありました。
 どんな人にもまじめに向き合う、のはなのくすりは、効果てきめんだと、ますます評判になります。そうやって、たくさんの人に喜ばれていることに、のはなも大喜びするのでした。

 季節が過ぎ、暑くなってきました。のはなの庭も、春の花から夏の花へと入れ替わっていきます。
 のはなはいつものように、庭の手入れをしていました。一休みして、あらためて庭を見回したとき、ふと、ある男の子の顔が思い浮かびました。
小川おがわくんも、この庭に招待したいな。」
 のはなはぽつりとつぶやきました。
 小川おがわくんは、のはなの学校の、となりのクラスです。のはなと同じクラブ活動に入っていました。のはなは少しだけ、話したことがありました。
 いつも楽しそうに、クラブ活動に取り組む小川おがわくん。のはなは、小川おがわくんともっと話してみたい、仲良くなりたい、と思うようになっていました。のはなは、小川おがわくんのことが、好きなのでした。
 のはなの庭には、基本的にほかの人をれません。お師匠さまに、むやみやたらにほかの人を庭に入れてはいけない、と教わっているからです。
 ですから、だれかを庭に招待するということは、相手に心を許していることになります。その証拠に、今まで庭に入ったことがあるのは、のはなのお母さんとお父さん、お師匠さま、昔から仲のいい友達一人だけなのです。
 そこに、新しく、小川おがわくんを招待したい。それはつまり、小川おがわくんと、心を許せるようなあいだがらになりたい、ということでした。のはなは何日かのあいだ、そのことについて考えました。
 迷った末に、思い切って、好きだという気持ちを、伝えることにしました。
 ですが、仲がいいわけでもないのに、いきなり、好きだ、と言うわけにはいきません。のはなはまず、小川おがわくんと仲良くなろう、と考えました。クラブ活動のときに、前よりも話しかけてみるのです。
 ですが、のはなは今まで、好きだと思う相手と、仲良くなろうと行動したことがありませんでした。そこで、「まほうのくすり」を使うことを思いつきました。
 くすりは、ほかの人のために使うのはもちろんですが、自分で自分のために使うのも、いいのです。
 のはなはさっそく、庭でふさわしい草をつみました。今回は、根や葉を使います。
 乾燥させて、細かくくだき、粉にします。小さな布の袋に入れて、お守りとして、持ち歩くのです。
 それから少しずつ、クラブ活動で、小川おがわくんと話せるようになっていきました。あまり緊張せずに話せたり、話したいことがすらすらと、頭に浮かんだり。
 学校行事の係で、小川おがわくんの友達、松下まつしたさんと一緒になり、仲良くなることもできました。
 松下まつしたさんを通して、小川おがわくんと、ほかの友だちも一緒に、遊びに出かけるようにもなりました。
 そうしてじゅうぶん仲良くなって、いざ、気持ちを伝えた、のはな。
 小川おがわくんの返事は、悲しいものでした。のはなの思いは、実らなかったのです。
 どんなにすばらしいくすりを使っても、人の心を変えることはできません。変わるのは、自分の心だけ。
 効果てきめんの、のはなのくすりといえども、かなえたいことそのものは、どうしてもかなわない場合も、あるのです。それでも、お客さんが、効果を感じてくれるのは、かなわなかったことで、反対にもっとよくなった、幸せになった、だからなのでした。それがくすりの力でもありました。
 頭ではわかっていたのはなですが、今まで、実際に感じたことはありませんでした。
 このとき初めて、うまくいかない悲しさとくやしさを、知ったのです。

 のはなはすっかり落ち込みました。じまんの庭も、すっかり荒れてしまっていました。
 それでも、どうしても「こころのくすりやさん」を続けたい、のはな。お店にお客さんが来るたびに、荒れた草花をかきわけて、なんとかくすりにできそうなものを、むりやり探すのでした。
 ところが、どうしたものか、荒れた庭からとれた草で作られたくすりは、効果がないようでした。のはなはお客さんたちに、苦情を言われてしまいました。

 何日かして、のはなは月に一度の、お師匠さんとの勉強に行きました。
 勉強中も、元気のない様子ののはなを見て、お師匠さんは言いました。
「のはなちゃん、しばらく、くすりやさんを休みなさい。」
 お師匠さまのとつぜんの言葉に、のはなはおどろきます。
「お師匠さま、どうしてですか。わたしは、くすりやさんで、みんなを幸せにしたいんです。」
 お師匠さまは、のはなに返事をしました。
「かんじんの、のはなちゃん自身が、幸せではないでしょう?」
 のはなは、さらにおどろきました。
「今、のはなちゃんは元気がない。とても悲しそうなの。庭も、荒れているね?」
 心の中を、そして庭の様子までも、見抜かれたことに、のはなは何も言えなくなりました。
 お師匠さまは、優しく、言葉を続けました。
「いいかい、のはなちゃん。『こころのくすりやさん』というからにはね、まず自分の心が元気にならなければいけない。そうやって初めて、ほかの人を元気にできるんだよ。」
 のはなはうつむいて、お師匠さまの話を聞いています。
「だから、まずは、荒れた庭の手入れをしなさい。ほかの人の悩みを聞く前に、自分の生活をきちんとして、自分の心を、元気にしてあげるの。」
 お師匠さまは、のはなを元気づけるように、静かに言いました。のはなは小さくうなずきました。

 さっそくその日から、のはなは「こころのくすりやさん」を休みにしました。わかりやすく、「休業中」のふだを出しました。
 そしてひたすら、荒れた庭をきれいにすることに集中しました。
 まず、かれてしまった草を、土から抜きました。元気がないように見える草も。抜いた草は、土に混ぜて、肥料にするのです。たねがあれば、とっておきました。
 それから、スコップを使って、土をやわらかくほぐします。そのあと、ふみ固めます。
 とっておいたたねを植えて、芽が出るのを待ちます。水やりをしたり、肥料をあげたり。心をこめて、草たちの成長を見守るのです。
 ふしぎと、手入れをしているあいだは、夢中になって、悲しいことも忘れられるのでした。
 こうして、のはなは毎日、庭の手入れを続けました。もちろん、学校に行きながらですから、すぐにすべてが整うわけではありません。
 でも、毎日少しずつでも手入れをしていくことで、庭は知らないうちに、変わっていき、やがて大きな変化を起こすのです。いつのまにか、のはなの庭は、すっかり前のような美しさを取りもどしました。
 いえ、前以上に、生き生きと葉がしげり、花も咲きほこっているようでした。種類ごとに、さまざまな形の葉からは、生きているよ、と歌う声が聞こえてきそうなくらい。黄色、白、うすいピンク、青、むらさき、色とりどりの花は、のはなに語りかけてくるようです。
 のはなの心からも、悲しみはいつしか消えて、すっかり元気になっていました。
 これで、くすりやさんを、また始めることができます。のはなはとてもうれしそうでした。

 始める前に、のはなは自分のためのくすりを作りました。いろいろな種類の、根、茎、葉、花、実、すべてを混ぜ合わせ、煮詰めたあと、固めます。それを水にとかし、手をしばらくひたします。新しい希望がわき上がってきました。
「これでまた、大好きなくすり作りで、みんなを幸せにできるね。」
 のはなはうれしそうに、つぶやきました。
 お母さんとお父さんも、のはなが元気になったことと、庭がまた美しくなったことを、とても喜んでくれました。
 こうして、のはなは無事、「こころのくすりやさん」をふたたび始めました。
 今度はちゃんと前のように、くすりが効果を見せています。評判が伝わるのか、前よりお客さんが増えたような気がしました。
 ときどき、やっぱり、落ち込むようなできごとも起こります。のはなはそのたびに、くすりやさんを休んで、庭の手入れをするようになりました。まわりの人もわかってくれるし、休むことで、なぜか、よりすてきなくすりを、作ることができるようになるのです。
 いつ見ても美しい、のはなの庭。そこから生み出される、心のなやみを解決する、まほうのくすり。今は見習いの魔女であるのはなも、将来、りっぱな魔女になれることでしょう。

 今日も、のはなの庭は、たくさんの草花で、幸せいっぱいです。


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あとがき

児童向けっぽいのを書きたくて、児童向けになり損ねたお話です(^_^;(主に文章表現的に)もう、大人向け、というか、読解力と人生経験(?)がある人向けでいいです…。
「くすり」の効果の設定が、なんか矛盾していますね…。ちゃんと考えないから…(゜o゜;; あと、庭仕事とかしないので、そのあたり、間違っていたらすみません。ファンタジー設定ということで、お許しを…!
あと、主人公の名前がわかりにくくてすみません。
春の野草が好きなので、野草がいっぱい咲いている庭のお話を書きたかったのです。なかなか上手く書けませんでしたが、ひとまず形にできてよかったです。
お読みくださって、ありがとうございました!

2018.5.5